一歩の味わい

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平松良夫 牧師

 

 

一歩の味わい

平松良夫

 

ミヒヤエルーエンデ作の「モモ」という物語の中に、道路掃除夫のペッポが登場します。その仕事ぶりが大変印象深いのです。

 

ペッポは、割り当てられた通りをゆっくりとていねいに掃いてゆきます。一歩進んでは息を深く吸って一掃きし、またI歩進んでは息を吸って一掃きするというようにやってゆきます。彼は、たびたび短い休息を取り、何か考える様子で遠くの方を見ます。そして同じことを繰り返すのです。

 

ある時、ペッポは親友のモモに話します。「長い長い通りを前にしている時、それがとほうもなく長く感じられて、とても最後まで掃き終えることはできないと思えることがある。そこで急ぎだす。もっと速くもっと速く。ところが、何度目を上げても、前と同じくらい残っているように見える。そこでさらに急ごうとして、気が狂ったように働く。そして結局は、すっかり息が切れて、やめざるを得なくなる。

 

決して通り全体のことを考えてはいけない。ただ次の一歩、次の一息、次の一掃きだけに心を集中すればよい。それが仕事を楽しむ方法だ。

 

そしてある時、いつの間にか通り全体がきれいになっていることに気が付く。しかも、息が切れていない」 (筆者訳)

 

仕事のことなど、生活のいろいろな課題について、私たちは望む結果を早く得たいと焦りがちです。そのため、取り組んでいることの過程を味わい、楽しむことができないばかりか、それを成し遂げる前に息が切れてしまいます。

 

神様は、私たちにとって何が必要で良いことかご存じであるとともに、その実現のために最も適切な時をお選びくださいます。そのことを信じて、先を急ぐことなく、今ゆだねられている一つ一つのことと落ち着いて誠実に取り組むなら、私たちに備えられた力が最も良く生かされることでしょう。

 

「安らかに信頼していることにこそ力がある」

(イザヤ3015節・新共同訳