31  7層モデルの使い方

本多 謙 (2020/6/20

 

7層モデルの例として桂離宮とベルサイユ宮殿を例に挙げた。誤解の無いように申し上げると、桂離宮やベルサイユ宮殿を造った人間の行為を例に挙げたのであってこれたの出来上がった建物について述べた訳ではない。出来上がった建物にはそれを設計し建築した人々の世界観、美や秩序に対する意識が込められているからだ。

 

第7層に位置するのは任意の(any)人間の行為だと言った。では、7層モデルを、思い付くような自分や他人の行為に適用するにはどうしたら良いのだろうか?その為の簡単なルールがある。それは

A)    7層モデルには系統がある」

B)    「共通するものは下位層に。共通しないものは上位層に」

というものだ。

 

7層モデルには系統がある」について述べる。飛行機の歴史はライト兄弟に始まるが、人間の空を飛びたいという意欲の歴史はギリシャ神話から始まる。1785年に浮田幸吉がグライダーで滑空したがその技術は途絶した。1896年オットー・リリエンタールが滑空に成功し、その技術はライト兄弟に受け継がれた。以来21世紀の今日まで飛行機の技術はロケット、宇宙船の技術に至るダイナミックな発展を続けた。しかし、複葉機から単葉機、ジェットエンジンによるロケットという節目はあったにせよ、そのどの一時期をとっても、技術の発達は小さな改良の積み重ねだったことは歴史を調べれば分かる。これは、人が対象物について思考し自分のアイデアを実現しようとするときの進化の自然な姿と言える。飛行機の7層モデルにはグライダー、複葉機、単葉機、ジェット機、ロケットなどの進化系があり、その進化は樹状を形成する。

 

それは人の思考の展開の系を示している。何故なら、我々の思考や認識は常に部分でしかなく、その結果変更しようとする部分も、全体の一部分でしかないからだ。従って、例えば、現在の日本の既存の法律全てを一遍に全く違うパラダイムで書き換えられるかという質問に対して「否」と答えることになるだろう。革命が起り、憲法が替ったとしても民法など生活に関連する法律の大半は人々の生活様式が変わらない限り生き残るからだ。たとえ革命が起ったとしてもその革命思想は過去の思想の樹状構造の一部だ。

 

思想も同様だ。ブッダは自分の教えをヒンズー教の一派だと思っていたし、イエス・キリストも自分の神学をユダヤ教の一派と認識していたし、マホメッドは既存のユダヤ教やキリスト教の誤りを正すつもりでイスラム教を開いた。ヘーゲルの弁証法はキリスト教の三位一体概念の援用だし、マルクスの歴史観はキリスト教の終末観の応用だ。キリスト教プロテスティズムの歴史をみると様々な団体が様々な教派から派生していることが分かる。ユダヤ教もキリスト教もイスラム教も旧約聖書に相当する物が聖典だ。大きくはこれらの宗教の7層モデルが存在するし、小さくは個人の何かの行為の7層モデルが存在する。これらのモデルは各々何らかの系統に属する。系統は樹状構造を形成する。

 

共通するものは下位層に。共通しないものは上位層に」について述べる。法体系は憲法を基礎に法律、条令などで構成されている。1つの条令は1つまたは複数の法律を根拠に、1つの法律は1つの憲法の1つまたは複数の条文を根拠に成立する。同様に、7層モデルの或る層に属する事物はその下位層の事物の上に成立する。例えば、キリスト教徒にもイスラム教徒にも成立する事物があるなら、それは下方の層に属する事物になる。例えば、医薬品は一般にキリスト教徒にもイスラム教徒にも効く。医療行為が第7層とすれば、医薬品の根拠となる化学変化は第1層に属する。病院や医療設備や製品としての薬品などから構成される医療システムは第6層に属する。医療や医薬品に関する法律や治療の方法論は第5層「ルール」に属する。癌には癌治療の方法論の体系(ルール)があり、糖尿病においても同様だ。この様に7層モデルを使って人間の行為を分析する。この際上の層から下の層にむかって順に行うのが宜しい。

 

そうすれば自分にとって絶対で譲歩できないと思っていたことが全体から見れば極く小さなことだったことが解るだろう。これがこの7層モデルの効果だ。